情報、誤報、偽情報(または『これはおまえさんたちが探しているドロイドではないぞ』――スター・ウォーズ エピソードIV/新たなる希望より)パート1

Whose job is it to make this stuff easy to understand?

「探しものが必ずしも見つかるとは限りません… 」

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セーフキャストでは、当初から、収集するデータは正確で分かりやすく、有益かつ上手に可視化され、誰もが簡単にデータ・アクセスできるべきだと考えてきました。これは多くの点で、情報デザイン、並びに社会的責任を果たすというビジョンにおいて、模範事例(ベストプラクティス)となっているかと思います。

その際、セーフキャストのデータのオープン化と透明性が最重要とされてきています。我々のデータの表示方法は、直観的かつ、思慮深さがあること、コンテクスト(背景情報)も提供することを原則としており、さらに、デザイン的な美しさも追求しています。

求めている情報が誰にでも簡単に見つけられるように、内容もできるだけ分かりやすく伝えられるよう心がけてきました。このような価値観と相反する形で、諸公機関から公式情報が発表されるたびに、私たちは戸惑いを覚えます。

率直な感想として、原発事故が起きてからの最初の数週間、政府は失策を続け、全くと言っていいほど情報が欠如した状態が続いたので、一般市民は政府が発表する情報の質やアクセスしやすさといった点では、かなり妥協せざるを得ませんでした。政府による情報提供は当然の義務であり、法的にも義務付けられているはずなのですが、結論から言うと、私たちセーフキャストの多くは一生懸命に放射能情報を収集し、事実確認を重ねてきました。まずここでは簡単な近況報告をします。

(1)政府は予想以上に多くの情報を持っている(以前は私たちが全く期待していなかったのですが…)

(2)しかし、依然として情報の内容確認、事実確認が必要で、政府サイドではない第三者による調査が必要である

(3)何カ月もかけて調査しても、依然として情報収集のためにすら近づけない地域がある

さしあたって(2)と(3)については仕方がないとしましょう。つまり、セーフキャストは今後も引き続き調査していかなければならないということになるのですが、こういった調査は得意としていますし、モチベーションの高いメンバーが揃っているので、今のところさほど大変なことではありません。調査も精度を増し、信頼も築きあげ、かつては敵対した立場にあった人たちとも同志となりました。

しかし、そうは言っても、(1)に関しては、セーフキャストとしても、今後どのように対応していけばいいのか非常に悩むところです。様々な公式情報が入手可能となりました。また、その多くは信頼できる内容です。

しかし、分かりやすく有益な情報に簡単にアクセスできるようになったとまでは言えないのが現状です。今のご時勢、腕の良いウェブ・デザイナーや有益な情報を見つけるのは容易なはずですが、文部科学省(以下、文科省)のウェブサイトは利用者にとって、「できるだけ難しく、使いにくい」(as difficult as possible – 略して “ADAP”)作りになっています。ですので、そこから情報を見つけたり、データを使用することが非常に難しくなっています。ウェブサイトの担当者が良い仕事をしようと心掛けてくれれば、もっと上手な形で情報公開できるはずなのですが…。

キャンベラ・ファストスキャン・シリーズのホールボディ・カウンターは。福島県内の多くの病院で住民の内部被爆の検査に使用されています。

ホールボディ・カウンターによる内部被ばく検査の結果報告について

ホールボディ・カウンター(WBC)による内部被ばくのモニタリング結果の報告を一例として取り上げてみます。この検査は福島県内の各自治体で実施されていますが、福島県が直接行うこともあります。

また、各自治体の代わりに個人病院が検査を実施することもよくあります。福島県は2012年10月一杯までの検査結果と項目ごとに分類された詳細情報をウェブページ上で開示しています。ここにはかなり大きい数字が並べられています。(下の表参照)。

福島県が提供しているホールボディ・カウンターによる内部被ばく検査結果報告書には、上記表にある主要データがまとめられています。表記された情報そのものは正確ですが、その一方で、非常に分かりにくい形で情報が並べられています。[

福島県のWBC内部被ばく検査の結果ページ(日本語)

福島県のWBC内部被ばく検査の結果の内訳(PDF、日本語)

2012年6月から10月までの期間に、被験者90,050人中、90,024人が実効線量1ミリシーベルト未満の内部被ばくレベルにあったと報告されています。結果の内訳詳細を見てみると、各自治体で検査を実施した際の被験者数が年代別に表示されています。この場を借りて、この情報を公開して下さった福島県に謝意を申し上げます。その一方で、もう少し分かりやすく、かつ有益なデータを簡単に提供することもできたのでは、と感じます。

実のところ、福島県は、どうして南相馬市や平田市といった市町村が既に実施している検査結果報告の方式を取り入れないのだろう、とすら思っています。(下図参照)。

平田市、南相馬市をはじめとする市町村では、率先してホールボディ・カウンターによる内部被ばく検査結果が詳細に報告されています。検査結果も視覚化して表示しているので見やすくなっています。先ほど紹介した福島県の表よりも、この平田市のグラフの方がより有益なデータが分かりやすくまとめられて表示しています。

南相馬市のWBC内部被ばく検査結果

平田市のデータでは、1キロ当たりのベクレル数、年代別グループ、性別、そして経時的変化といった項目ごとに詳細情報を提示しています。また、食品、水道水、屋外滞在時間数といった情報も発表しています。どれもわかりやすく、一貫性を保ってグラフ表示しています。福島県の公式報告では、「1ミリシーベルト未満」の内部被ばくレベルと判定された被験者のうち、一体、何人が内部被ばくせずに済んだのかということも分かりません。

我々が知りたいのは、実際の内部被ばくレベルは一人当たり何ベクレル(Bq/body)だったのか、1キロ当たり何ベクレル(Bq/kg)だったのかということです。というのも、ある人の被ばく量が年間1mSV未満だったとしても、一人あたりのベクレルが高いということも有り得るからです。その場合、その内部被ばくレベルをすぐにでも下げる必要があります。

詳細情報があれば食品保護と除染対策の有効性が見えてきますし、関連分野における政策を監視することも可能です。また、十分な情報があれば、必要に応じて一般市民も行動に移すことができます。福島県の報告書ですが、まるで監査役の人が、報告に一番重要なのは検査が実施されたことを示す証拠を提示することで、その目標を達成すればそれでいい、と決めてしまっているかのような報告の仕方になっています。実際に、報告書の内容は、一番大切と思われる情報を含んでいません。

坪倉正治医師(東京大学医科学研究所)や早野龍五教授(東京大学大学院理学系研究科)は、南相馬市立総合病院やひらた中央病院をはじめ、他の地方自治体に対し、ホールボディ・カウンターによる内部被ばく検査プログラム実施に関して助言されています。先生方は何カ月も掛けて病院の職員たちと共に取り組み、いろいろな機材を確認しながらテストし、機材のメモリ調整も行っています。検査実施法や調査方法論的に万全を期す形で臨んでいます。また、結果報告の仕方に関しても、どのような形で報告すれば人々のためになるのかという点についても熟慮されており、情報の透明性と公平性が追求されています。坪倉先生は非常に分かりやすい形で為になる情報を定期的にブログで発信しています。メールによるニューズレターを配信することで、一般の人にも検査結果内容が理解できるよう、様々な情報を織り交ぜて解説しています。

坪倉先生のブログ

検査結果を理解するには、ある程度の説明が必要になってくるので、そのような形で解説するというのは非常に大切なことなのです。例えば、ホールボディ・カウンターによる内部被ばく検査というのは、あくまでも、ある時点における状況を捉えただけのスナップショットのようなもので、現状は掴めるものの、それ以上の内容、たとえば、それよりも数カ月前の時点でその人がどれだけ内部被ばくを受けていたかと言ったことまでは知ることができません。

また、この検査では外部被ばくに関しての情報は全く分かりません。坪倉先生は、ホールボディ・カウンターによる内部被ばく検査には限界があること、そして、食品の放射線量をしっかり監視する必要があること、それから、個人単位ではなく一世帯単位で測定するのが最適な理由などをわかりやすく解説しています。

残念ながら、福島県の報告書には、そういった配慮は全く見られません。南相馬市が推進してきた詳細報告のやり方は、他の自治体でも受け入れられるようになってきましたが、福島県や日本政府ではまだ取り入れられていません。県や国は検査結果を市民・国民に分かりやすく伝える義務などないと思っているのでしょうか。情報がオンラインで公開されれば、国民はそれで喜ぶと思っているのでしょうか。人によっては、政府はごまかそうとしているのではないか、または、組織的な慣習から無意識のうちに事実を隠蔽してしまっているのではと勘繰る人もいるかもしれません。でも、実際には、検査結果公表に関しての担当者が、1キロ当たりのベクレル線量を項目ごとに詳細表示しながらグラフを作成するよう指示されていなかっただけなのかもしれません。指示がなければ、そうしないのでしょう。残念ながら、福島の事故以来、こういったことはよく見受けられます。

メバル科のこのムラソイという魚は、2013年1月、東京電力福島第一原発港湾内で獲られたものです。この魚から25万4000ベクレル/kgと目が飛び出しそうなほど驚くべき数値が計測されています。(写真:東電提供)

海産食品検査結果報告に関して

他の例として魚介類の放射能汚染検査結果を見てみましょう。昨年(2011年)から厚生労働省と農林水産省は水産庁を通じて魚の放射性物質汚染検査を行い、結果を一般公開しています。魚を含む様々な食品は市場に出回る前に検査が行われます。政府が設定した新基準値100Bq/kgを上回った品目は市場に流通しないよう出荷制限がかけられます。基準値を超える食品が店頭に並ぶことのないよう、十分に食品検査は実施されているのか、と懸念する声は当初からかなり聞かれていました。

食品検査結果について、政府がまだ明確な説明をしていない、との批判の声も上がっています。2012年10月1日~12月6日の期間に実施された農林水産省発表の検査結果報告表をご覧ください。

厚生労働省と農林水産省は食品における放射性物質調査の検査結果に関して、詳細な統計データを公開しています。この表は農林水産省発表の34ページ分のスプレッド・シートから構成される報告書(PDF版)の1ページ目からの抜粋です。このスプレッド・シートから、ある傾向を読み取ったり、時間推移の中でデータがどのように変化しているかを把握するには、かなり根気と労力が要ります。

最近の日本の水産庁の試験結果(PDF、日本語)

ここには数十ページ分に相当する大量のデータが載せられています。何百回にも及ぶ個々の検査品目が、検査結果、検査パラメーター、検査実施日、魚を捕獲した場所などの情報とともに入力されています。データはPDF、エクセルのどちらのフォーマットでもダウンロードできますし、過去にさかのぼったデータも入手可能です。数ヵ月前になりますが、魚の安全性に関しては一般の人々も強い関心を持つ方が多いのではと思い、セーフキャストのメンバーでこのデータを読み込み、魚の放射線汚染レベルが下がってきているのかどうかを調べてみました。

基準値を超える品目を数えたり、月ごとに検出された検出された最高測定値の記録を書き起こすのは非常に骨の折れる作業でした。そして2012年10月には、米国在住のウッズホール海洋学研究所研究員、ケン・ベッセラー(Ken Buesseler)氏が、同じ農林水産省のデータベースを使ってデータを細分化して分析し、放射能汚染レベルが低下してきている魚の種類はどれか、また、低下していない魚の種類とその生息場所を明らかにした研究結果を発表しました。

このベッセラーのグラフ、本質的には農林水産省のデータをもとに作成しただけなのですが、このグラフを見れば、ひと目で全体像がすぐに掴めるようになっています。

ベッセラーの福島沿岸・太平洋沖魚介類放射能汚染濃度調査 概要

ベッセラーの福島沿岸・太平洋沖魚介類放射能汚染濃度調査 要約(無料)と全論文(有料)へのリンク

ベッセラー博士に感謝します。

この情報は農林水産省のデータ中に既に埋もれていたということになるのですが、魚の種類や生息地についてちょっとした専門知識のある人が、時間をかけ、いろんな情報を織り交ぜながら、一般の人でも理解できるよう結果を視覚化し、公表してくれたのですから。

結果を項目ごとに分け、生態学的地位(ニッチ)を反映させながら結果を分かりやすく視覚化することで、海底で餌を取る魚(特に福島沿岸で獲れた魚)や淡水魚は、依然として放射能汚染度が高いままなのが見えてきます。また、遠海魚(深海魚ではなく海水の表面付近に生息する魚)は一般的にそれほど汚染されていません。表海水層に生息する魚(水深200メーター以上の生息地とするもの)や水表生物(主に沿岸の水面近くに生息するもの)は、2011年9月以後政府が定めた基準値100 Bq/kg未満におさまっています。

特に注意しなければならないのは海底に生息する魚です。海底魚の汚染レベルがあまり下がっていないということからも分かるように、福島県沿岸の海底はかなり汚染されてしまっています。(海底とそこに生息する魚が汚染されてしまうのは、プランクトンの排せつ物が海底に沈殿し、海底魚がそれを餌として食べてしまうためだということが、ベッセラー率いる研究チームの他の調査で明らかにされています。(詳細はウッズホール・シンポジウムでの発表をご参照ください

どうして農林水産省はベッセラーのように分かりやすく結果を報告してくれないのでしょうか。ホールボディ・カウンターによる内部被ばく検査の場合と同じで、政府とは関係のない人が敢えて時間をかけてデータ分析をし、一般の人にも分かりやすく伝わるよう結果報告してくれるのを待たなければならないのでしょうか。

みなさんもそろそろ政府が繰り返しているパターンにお気づきかもしれません。政府はほんの少しだけ役立つ情報を提供している、もしくは、できるだけ分かりにくい形で(ADAP)データを公表しているのです。

この話はパート2へ続きます…。

About the Author

Azby Brown

Azby Brown is Safecast's lead researcher and primary author of the Safecast Report. A widely published authority in the fields of design, architecture, and the environment, he has lived in Japan for over 30 years, and founded the KIT Future Design Institute in 2003. He joined Safecast in mid-2011, and frequently represents the group at international expert conferences.